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松山地方裁判所 昭和40年(行ウ)9号 判決 1973年3月29日

原告 三浦密太郎

右訴訟代理人弁護士 緒形寛之

被告 西条市長

伊藤一

右訴訟代理人弁護士 米田正弌

右指定代理人 谷崎輝明

<ほか六名>

主文

1  被告が昭和三五年一〇月三一日付をもって原告に対してなした免職処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、原告

主文同旨

一、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求原因

1  原告は、昭和二一年五月に西条市役所に就職し、以来同市役所職員としてその業務に従事してきた。

2  ところが、被告は、昭和三五年一〇月三一日、当時市長部局の事務職に在職中の原告に対し、原告は地方公務員法二八条一項四号の「定数の改廃により過員が生じた場合」に該当するとして免職処分(以下本件処分という)をなし、右辞令はそのころ原告に郵送された。

3  そこで、原告は、昭和三五年一一月二九日、西条市公平委員会に対し右不利益処分の審査請求をしたところ、同委員会は昭和三六年一月二四日を第一回として昭和三七年一二月までの間に一〇回前後開催され口頭審理が行われたが、その後中断され結審しないまま今日に至っている。

4  しかしながら、本件処分は後述のとおり違法というべきであるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1ないし3項は認める。

2  同4項の主張は争う。

三、被告の主張(本件処分の適法性)

本件処分の根拠となった定数は、西条市職員定数条例(昭和三五年一〇月二〇日改正施行西条市条例第二七号)五条の「任命権者が、前条に定める職員の配分を行うに当っては、あらかじめ職群別かつ必要により組織単位別の経常的職位数を設定して行うものとする。職群の区分については、市長が定める。」という委任規定にもとづき、別表定数欄記載のとおり各任命権者が新たに設定した経常的職位数(以下職群別定数という)のうち、同表定数合計欄記載の各部局事務職群の総定数一六七名であって、本件処分時点での事務職の総現員数は同表該当欄記載のとおり一七一名であったから、その差四名が過員であったことになり、右は地方公務員法二八条一項四号の「定数の改廃により過員が生じた場合」に該当するというべきであるから、これにより被告が事務職に在職する原告を免職処分としたことは適法である。以下にその理由を述べる。

(定数についての原告の考え方の基礎)もともと定数とは組織体の職位の数をいうと解すべきであるから、これら職位または職員の数は、その組織体が何を達成しようとしているのかという組織体の目的とそれをどのようにして達成しようとするのかという目的達成の手段・方法によって規制されるものであり、また各職位に期待する能力・個々の作業方法などによっても大いに異ならざるをえないものである。したがって、理論的には、達成しようとする総仕事量(一件の処理必要時間数×総件数)を職位に期待する労働時間数で除せば得られるというものの、実際問題として科学的合理的に完壁な数を計測することは至難のことではあるが、組織体が目的活動を行なうにあたっては、常に投入する経費と生産される価値について最少の経費で最大の効果を期待することは当然のことであるから、定数についても組織体の目的すなわち期待する結果に対し必要最小限度のものを求めることとなるのはいうまでもない。これが定数を論ずる実質的な意義であり、定数管理の基本であるが、特に地方公共団体においては、目的活動のための経費が税という住民の負担によってまかなわれていることから、定数管理は厳格な立場で対処しなければならない。すなわち、地方自治法一条において「能率的な行政の確保」をかかげ、同法二条一三項において「地方公共団体は、その事務を処理するに当っては……最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」とし、同条一四項において「地方公共団体は、常にその組織及び運営の合理化に努めるとともに……」と規定しているゆえんである。つぎに、職位とは組織全体の目的活動を複数の職員によって達成しようとする場合において、一定の機能を期待される職員の職であり、西条市職員定数条例一条ではこれを一定の職責と権限を与えられている組織上の地位と定義しているが、この職位の設定が職員の数を定める前に先行すべきであり、このことがなければ職員の任用もありえない。すなわち、任用とは地方公務員法一七条一項に規定するように採用・昇任・降任または転任の四つであるが、欠員を生じた場合というのは定数条例で定められた定数と実員との差を生じた場合をいうものではなく、具体的に特定の職が補完されていない状態をいうものである。以上のように、定数とは単に数の問題ではなく職位数であり、しかもその職員数の決定は個々の職位に期待する機能を問題とせざるをえないこととなる。これがすなわち職群別定数についての考え方の基礎である。

(地公法二八条一項四号の「定数」および「過員」の解釈)ところで、地方自治法一七二条三項において「職員の定数は、条例でこれを定める。」と規定している趣旨は、定数は本来的に組織体の目的活動に必要な職員の数であるから、地方公共団体の場合は任命権者が決定することが合理的であるという考え方もあるが、補助機関の数的な枠を任命権者たる執行機関の裁量に委ねることとした場合には、任命権者のおかれた政治的立場などから現実の問題としてその枠は必要以上に増大の傾向をたどることが予想され、地方公共団体の財政を不当に圧迫する要因にもなりかねないことが憂慮されるため、そのような行財政運営の非効率化・破局化を防除し、住民の求める公共の利益の増進を保障する立場から、定数の総枠を議会の議決にかからしめることとしたものである。このような解釈の根拠となるものを実定法規のうえから考察すれば、地方自治法一五八条七項に「市町村長は、その権限に属する事務を分掌させるため、条例で必要な部課を設けることができる。この場合においては、第二条一三項および一四項の規定の趣旨に適合し……」と規定されている。この規定は、定数の決定と不離一体をなす地方公共団体の内部行政組織の決定について定めるものであるが、この規定の解釈として、部課設置条例の発案権は長に専属するものとされ、議会の修正権は長の発案権を侵害しない範囲で行使されることとせられており、またこの場合において部課設置条例を定めるにあたっては、地方自治法二条一三項および一四項の経済性の原則に適合するようにしなければならないものとされている。そして、同法一七二条三項に規定する定数条例の発案権については、法的には長と議員の双方にあるが、前述の部課設置条例における場合と同様、長が提案することが一般的で、この場合における議会の修正権についても部課設置条例に準じたような行政実例となっており、また同項の定数の解釈において、この定数は地方公共団体における職員数の限度枠であるから、現実の職員数が条例で定める定数を下廻っても差し支えないとせられている。以上のとおり、職員の定数を議会の議決にかからしめたのは、地方公共団体の行財政運営を効率的にすることにより、公共の利益をよりよく増進させようという意図に出たものであって、職員の身分保障とは直接の関連はないものである。そうであるとすれば、地方公務員法二八条一項四号にいう定数概念についても、これを条例で定めた定数のみに限定して解釈すべき根拠はなく、条例の委任により任命権者が定めた職群別定数もまた同号にいう定数に含まれるものといわなければならない。そして、西条市職員定数条例二条に規定している定数(別表下部各部局毎の定数合計欄記載の数字がそれ)は各任命権者毎の配置しうる職員の最大限度の数を画したものであるのに対し、職群別定数は右限度数の範囲内において各機関がその事務を処理するにあたり、地方自治法二条一三項の趣旨に則りその目的に応じ適正な職員配置をするべく義務づけた右条例五条の規定にもとづいて各任命権者が設定した定数であって、両者の異同は前者は総括的な総数、後者は各職種別(職群別)の内訳的定数である。そして、地方自治法一七二条三項の定数概念は自治体におくべき職員数すなわち人の数という見地からの用法であるのに対し、地方公務員法二八条一項四号の定数概念は、同号に「職制若しくは定数の改廃……により……廃職……を生じた場合」とあるとおり、職(職位)の数の見地からの用法であるが、前記二様の定数概念は、いわば前記条例二条に規定するものが前者、職群別定数が後者に対応するものである。

四  原告の主張(本件処分の違法性)

(地方公務員の身分保障について)いうまでもなく、地方公務員は法律主義または条例主義によってその身分を保障されているが、このような民間労働者とは異った地方公務員の身分保障は、どのような根拠から認められるかについて述べると、一つは、憲法一五条によって任命権者の恣意的権力的な人事管理から職員の身分を保護し、職員の中立公正な職務執行を保障することがその根拠とされている。これは職員を政党政治から独立させ、職務に専念することができるようにその身分を保障し、もって国民に対するよりよい奉仕を確保するためであって、このような保障がなければ公務員は政党政治・派閥政治に服従し、その奉仕は時の権力保持者に向けられ、行政の公正とその継続的遂行は不可能となり、その結果として国民主権の原理は踏みにじられてしまうこととなる。もう一つは、労働者としての地方公務員の生存権的基本権の保障という側面からの身分保障である。労働者としての地方公務員は、その生存権を守るため憲法二八条の団結権が保障される必要があり、その保障があって初めて労働者として使用者と近代的労使関係を結ぶことができる。いうまでもなく憲法二八条は、憲法二五条の、「生存権の保障を基本理念とし」、「経済上劣位に立つ勤労者に対して、実質的な自由と平等とを確保するための手段として、その団結権・団体交渉権・争議権等を保障しようとするもの」であり、したがって「実定法規によって労働基本権の制限を認めている場合にも、労働基本権の根本精神に則してその制限の意味を考察」しなければならない(最高裁全逓中郵事件判決)ものである。このような考え方に立って地方公務員の労働基本権の制限を考察すると、右の制限が違憲でないというためには少なくともその制限の代償措置があり、それが行政によって厳格に守られなければならないというべきであり、地方公務員の場合、地方公務員法二四条六項、二七条二項、二八条、四六条、四九条の二などの規定がその労働基本権制限の代償措置と解せられる。そして、これらの代償措置のうちでも特に同法二七条と二八条の身分保障規定は重要であるから、その解釈適用は厳格でなければならない。このように、地方公務員の身分保障は、行政法的側面と労働法的側面との二面からその根拠をもつものであるから、地方公務員の身分保障規定はこれらの根本精神から解釈適用されなければならないというべきである。

(地公法二八条一項四号の「定数」および「過員」の解釈)本件の場合、被告は、地方公務員法二八条一項四号を適用して原告を処分したとしているので、同号の定数の概念を解明すると、法律は地方自治法一七二条三項で「職員の定数は、条例でこれを定める。」と規定しており、他に職員数に関する基準の定めはない。そうすると、実定法規上は過員の根拠となる定数は同項にいう条例で定めた定数であるというべきであって、このことは職員の身分保障に関する行政法上および労働法上の二つの原理(法律による行政の原理および労働基本権尊重の原理)からいっても当然のことといえる。すなわち、右は定数を任命権者の適当な決定に任せず議会の統制下におく趣旨で条例事項としているわけであり、このように過員の根拠となる定数が右の条例定数でなければならないことは、地方公務員法二八条一項四号による分限処分は職員の側に全然責任がないのにこうむる不利益であるから、その解釈は厳格でなければならないこと、まして同法二七条二項では免職にくらべてはるかに軽い降給処分でさえ条例に定める事由によらなければならないと規定しているのであるから、免職処分についてはなおさらその根拠はしっかりしたものでなければならず、最小限その事由が条例で定められる必要があると解せられることなどによっても理由づけることができる。もし定数の概念を条例で定められた定数以外のものとして把握するとすれば、その定数は「適正規模の行政組織において適正に配置された職員」というような抽象的なものとならざるをえず、このような抽象的な基準では、時に従って業務の量や質が変化する自治体行政において、時に応じて客観的に正しい基準数を算定することは実際上不可能に近く、これを強引に算出するとすれば極めて不正確なものとなってしまうほかなく、その算定する機関も議会では不可能であろうし、任命権者がするとすればそれは任命権者の適当な決定となり、ひいては任命権者の恣意的なものとならざるをえない。結局、このような抽象的な基準では実質的には基準を設けないのと同じことであり、職員の身分保障を有名無実のものとしてしまうものであるから、かような弊害を除去するためには、定数は条例で定めなければならず、条例で定められたもの以外は定数とはいえないわけであって、このような意味で、地方自治法一七二条三項が定数の設定を条例事項としたことは、任命権者の恣意的処分を防ぐための一つの身分保障制度であるといえる。過員はこのような条例定数を根拠にして初めて生ずるものである。したがって、西条市職員定数条例五条が分限免職事由たる過員の根拠となる定数の設定を任命権者に白紙委任しているとすれば、右規定は地方自治法一七二条三項に違反する無効なものというべく、被告の主張する職群別定数の設定が右委任規定にもとづいてなされたとしても、右は条例で定めた定数とはいえないというべきである。

(本件定数と過員の不存在)そこで、本件処分当時の西条市の条例定数と過員の存否について述べると、西条市職員定数条例二条にその定数が次のように規定されている。

所属機関別

(部局別)

定数

備考

1議会

2市長

2の1市長

二一五

2の2消防長

二四

消防長を含む

3教育委員会

五四

教育長を除く

4選挙管理委員会

うち六人は他の機関の補助機関としておく

職員の兼務とする。

5監査委員

6公平委員会

市長の補助機関としておく職員の兼務とする

7農業委員会

8固定資産評価

審査委員会

市長の補助機関としておく職員の兼務とする

総数

三一一

兼務職員は総数の中に加えない

右表によれば、西条市職員の定数は各部局別(所属機関別・任命権者別)とその総数とからなっているが、この場合、過員の根拠となる定数は総数の三一一名であって、これが条例で定められた定数とみるべきである。けだし、過員すなわち免職の根拠となる定数は、単に行政の合理的運営のための人員配置を定めた部局別定数によるべきではなく、その枠内において人員配置をやりくりすることのできる総定数であるべきことは、前述の地方公務員の身分保障の根本精神からいって当然のことだからである。かりに百歩議って定数は部局別定数であるとしても、原告は市長部局に属していたから、本件の場合過員の根拠となる定数は市長部局の二一五名であり、この二つのほかは過員の根拠となる定数はありえない。しかるに、被告の主張によれば、別表記載のとおり、右の条例で定めた総定数三一一名に対する現職員数は三〇四名であり、市長部局の定数二一五名に対する現職員数は二一一名であるというのであるから、いずれをみても本件の場合過員は存在しないことが明らかである。したがって、本件処分は、過員がないのに過員があるとして処分したものであって、地方公務員法二八条一項四号に該当しない違法な処分というべきである。

(仮定的主張)かりに職群別定数が過員の根拠となる定数だとしても、左の理由によって本件処分は違法である。

(1)  被告は、本件処分時に事務職群の総定数一六七名に対し現職員数は一七一名であったから四名の過員が生じたと主張するが、右四名の職員は存在していなかった。

(2)  職群別定数の設定およびそれによる本件処分は、行財政上の必要性もないのに被告の恣意にもとづきなされたもので、合理的根拠を欠く。

(3)  被告は原告に対して転用申出を促すなどの具体的交渉は全く行なわず、配置転換の義務を尽さなかった。

(4)  本件処分は、事実上の定年制を強行したもので脱法行為である。

(5)  本件処分は、被告が昭和三五年三月九日に西条市職員労働組合との間でなした「首切りは絶対しない」という協定を一方的に破ってなされたもので、権利の濫用である。

五、原告の仮定的主張に対する被告の反論

(1)  職群別定数の設定およびそれによる本件処分は、行財政上の必要から合理的根拠にもとづきなされたものであり、被告の恣意によりなされたものではない。

(2)  被告は昭和三五年一〇月一四日、職群別定数の設定に先だち、転用申出を受けるべく全庁的規模で訓令を発して、転用調整の義務を果した。

(3)  本件処分は定年制とは無関係である。

(4)  被告が職員団体の代表者の質問に対し「首切りはしない」と答えたことはあるが、その趣旨は、被告が自分の補助機関として勤務している職員をやむをえず分限免職する場合があるとしても「首切り」というような言葉は使いたくないというものであって、人員整理を絶対にしないというものではなかった。

第三、証拠関係≪省略≫

理由

一、請求原因1ないし3項は当事者間に争いがない。

二、ところで、被告は、本件処分は各任命権者が西条市職員定数条例五条の委任規定にもとづき設定した職群別定数中事務職群総定数に対し過員が生じたため、地方公務員法二八条一項四号の規定によってなしたものであるから適法であると主張するのに対し、原告は同号にいう過員の根拠となるべき定数は条例自体で定めたものをいうと解すべきであって、右職群別定数は右定数ではないから本件処分は違法であるとしてこれを争うので、まずこの点について判断する。

地方公務員法二八条一項四号は、職員が定数の改廃により過員が生じた場合に該当するときはこれを免職することができる旨を規定しているものの、同法は右過員の根拠となる定数の概念についてはこれを明らかにしていないが、地方自治法一七二条三項は「(普通地方公共団体の吏員その他の)職員の定数は、条例でこれを定める。」と規定している。地方自治法の右規定は、直接的には、地方公共団体の組織を構成するところの長の補助機関たる吏員その他の職員の限度数について、これを議会の制定する条例により定めさせることによって、任命権者たる執行機関の恣意的な職員限度数の設定を規制し、もって地方公共団体の行財政の健全化をはかるという組織法的観点からの規定であることは否定できない。しかし、同条四項において、右職員の分限その他の身分取扱いに関しては、同法に定めるものを除くほか地方公務員法に定めるところによると規定し、地方公務員法は、これをうけて、その二七条二項において「職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して降給されることがない。」と定めて、分限事由法定の原則を明らかにし、さらに分限手続とその効果についても、二八条三項において、同法に特別の規定がある場合のほかは必ず条例で定めなければならないこととしている。すなわち、地方公務員法は、分限処分の事由・手続および効果については同法もしくは条例で定めるべきこととし、その規定の存するかぎりその規定による分限処分を可能ならしめるとともに、その反面右にその規定がなければ職員はその意に反して分限処分を受けることがないこととして、地方公務員の身分を保障しているのである。そして、分限処分は、もともと公務の能率を維持し向上させるためやむをえない措置として、職員に道義上の帰責事由が存在しない場合にも認められるものであるから、いかなる場合に法定の処分事由に該当するかの解釈は、おのずから厳格でなければならず、右の身分保障の精神に背馳するような解釈をすることは許されないというべきである。そうであるとすれば、地方公務員法二八条一項四号の過員の根拠となるべき定数は、条例自体によってこれを定めたものをいい、任命権者の定めた定数は、たといそれが条例の委任にもとづいて設定されたものであるとしても、それが白紙委任的なものであるかぎり、同号にいう過員の根拠となる定数とはいえないと解するのが相当である。けだし、条例の委任にもとづかないときはもちろん、条例の委任にもとづくときであってもそれが白紙委任的なものである以上、その委任は形式的なものにすぎず、いずれの場合にも任命権者はその裁量で随意に定数を設定して過員を生ぜしめ、これによって容易に分限処分をすることができることとなり、結局職員の身分はあげて任命権者の意思いかんにかかる不安定なものとならざるをえないのであって、かような結果に陥ることを許すことは、右の身分保障の精神に背馳することとなるからである。かようにして、同号の過員の根拠となる定数は、条例自体で具体的数値として定めたものに限られる(そのうち総定数のみをいうのか、それとも任命権者別の定数をも含むかどうかの点は別として)と解すべきであって、地方自治法一七二条三項が職員の定数を条例事項としたことは、間接的には右の趣旨をも包含するものというべく、この限度で右規定は職員の身分保障の機能を営むものと解するのが相当である。

そうすると、被告主張の本件処分の根拠となった職群別定数は条例自体で定めた定数ではなく、条例の委任規定にもとづいたとはいうもののその規定は白紙委任的なものであることが明らかであるから、かりに右職群別定数の設定により過員が生じたとしても、地方公務員法二八条一項四号にいう「定数の改廃により過員が生じた場合」には該当せず、被告の前記主張はその前提を欠き失当であるというほかはない。しかして、≪証拠省略≫によって認められる前記条例自体に規定された西条市全体の総定数三一一名、市長部局の定数二一五名のいずれを基準としても、過員とならないことは、被告の主張する右に対する実在職員数が三〇四名、二一一名であることから明らかであり、他に過員の存在について主張立証のない本件においては、その余の点に対する判断をまつまでもなく、本件免職処分は、地方公務員法二八条一項四号の定める事由がないのにこれがあるとしてなした違法な処分たるを免れず、本件処分の取消を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 梶本俊明 梶村太市)

<以下省略>

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